機関誌『環境情報科学』
機関誌『環境情報科学』は、年4回の特集号(1〜4号)をはじめ、査読付き論文を中心とした年1回の論文集(別冊)ならびに英文誌(5号:英文名「Journal of Environmental Information Science」,2004年創刊)の計6冊を毎年発行しています。
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『環境情報科学』40巻4号 CEIS40周年記念特集号C:環境思潮を動機づけるもの−科学論理と経済原理を超えて 平成24年1月30日発行 B5版 84pp. 定価(税込み、送料別途):2,625円 |
目次
特集 環境思潮を動機づけるもの−科学論理と経済原理を超えて
- 山村の暮らしの全体性把握へ向けて−日記分析の有効性...3
- 荒川 康(大正大学人間学部 准教授)
- 人間,社会,環境の結びつきのシステム化と市民参画デザインの再構築...9
- 近藤 隆二郎(滋賀県立大学環境科学部 准教授)
- 地球温暖化対応−自然の摂理とエネルギー安全保障・経済成長のはざまでの国家の選択...16
- 西岡 秀三((独)国立環境研究所 特別客員研究員/(財)地球環境戦略研究機関 研究顧問)
- 安全・安心とリスク管理のジレンマ...22
- 浦野 紘平(横浜国立大学環境情報研究員 特任教授)
- 環境科学における決定論的世界観と確率的世界観...27
- 松原 望(聖学院大学大学院政治政策学研究科教授/東京大学名誉教授)
投 稿
- 研究論文 居住範囲の近接性に応じた友人との接触と主観的健康感との関連−個人レベル・地域レベル双方のソーシャル・キャピタル研究の統合を期して...31
- 福島 慎太郎,吉川 郷主,西前 出
その他
- 第8回環境情報科学ポスターセッション発表要旨集...47
- ほか
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【特集の編集にあたって】 40巻を通じCEISの設立40周年を記念して通年特集を組んできた。1号では40年の歩みを振り返り,2号では「環境統合経済」,3号では「環境の科学技術と社会とのかかわり」をそれぞれ特集テーマに取り上げた。環境と経済も環境と科学技術も,ともに環境研究の永遠のテーマであり,連綿としてメインストリームをなしてきた研究領域である。それぞれに環境と経済の関係史,環境と科学技術の歴史的変遷をひも解きながら,今日の研究のフロンティアを紹介する記事を織り込んだ体系立った特集とすることができた。 対して今回の特集の眼目は,科学論理と経済原理を超えたところにある,人間を環境保全に向かわせる動機に着目することとした。いわば,主流をなし,ある意味ではパターン化・定型化された環境理念や環境研究の立論から離れて,むしろ現在の環境論への戸惑いであったり,もの足りなさであったり,あるいは内在するジレンマや矛盾といった部分にスポットを当てて,率直に見つめてみようとすることにある。 今回の特集テーマは先の大震災と無縁ではない。東日本大震災の体験とそれからの復興の過程で,日本社会には大きなパラダイムシフトが生ずると考えられている。今後の学術的な環境研究や環境政策・行政に関しても,また,民間企業や市民の環境保全活動においても,今回の震災は当然ながら大きな変化をもたらすことになる。 顧みれば,1992年の地球サミットを契機に持続可能性が環境の基本理念となり,それが環境を語る際の合言葉になって以降,世界の環境論の幅は大いに広がり,環境の専門家のバックグラウンドはきわめて多彩なものになった。それにともない環境論と環境研究の手法も多様になった。しかし同時に,環境研究は悪い意味でパターン化され硬直的になってきた節がある。今回の大震災を契機に,環境問題への認識と研究の進め方をもう一度考え直す必要があるのではないか。 たとえば,地球温暖化防止や低炭素化を実現するために,おびただしい数の研究報告や環境保全派の人びとの主張が内外で展開されてきたが,最後の機会であったCOP17でもポスト京都に対する国際社会の合意は形成されずに先送りされた。つぎ穂として延長された京都議定書に参加することを日本代表団は拒否して帰還した。わが国の国内において,低炭素化は一向に進まず,民主党政権の出現後においても引き続きほとんど唯一の切り札とされてきた原発促進政策は,東日本大震災にともなう福島第一原発事故によって完全に破たんした。原発政策に従属してきた温暖化対策シナリオも一挙に瓦解したのである。 しかし,震災を境に,国内のマスコミも世論も温暖化問題への議論と関心を一時棚上げしてほとんど語らない。震災後の混沌の中で「温暖化対策どころではない」との風潮の中で,京都議定書からの離脱に対する政府方針への批判もほとんど聞こえない。その是非に対する主張はどうであれ,環境の最重要課題である温暖化問題が,震災で議論が途切れても支障がない程度に軽い話題ではなかったはずである。むしろ震災を契機に,低炭素社会形成や持続可能社会実現への議論がより深まり,環境とエネルギー安全保障とが統合的に論じられなければならない。 一方で,震災後の最大の環境の課題は,瓦礫の適正な処理と放射性物質の除染に移っている。かつて1990年代に環境行政が経験したダイオキシンのリスク評価とリスク管理における教訓が,今般の放射能汚染のリスクをめぐる行政措置の実施に十分生かされているのだろうか?おりしも,これまで「風評被害」という四文字で表現されてきた社会現象は,過剰反応が作り出す科学的根拠のない混沌という意味であったが,各行政機関が安心を重視した意思決定を行えば,それは風評被害ではなく実被害として歴史に刻まれることを私たちは実感した。そして,放射線の安全管理が環境行政に組み込まれようとしているこの時期に,環境リスク論もまた,食品の安全確保を含めた刷新が求められているといえる。 そこで今回の特集では,東日本大震災による状況変化が,「環境情報科学」に対処を求めているのではないかと思われる新しい課題と視点について,研究の立ち位置を異にする5人の方々に寄稿をお願いした。まずお二人の若手研究者に2編の寄稿をいただいた。荒川康氏には社会学の立場から,山村の農夫の37年にわたる日誌を読み解きながら,通常の科学が「分析」という手段によってとらえ損ないがちな,人間の暮らしをホリスティックに把握することの意義を論じていただいた。ついで,近藤隆二郎氏には社会システムの立場から,今日のような生活の分断と孤立化が進む中で,市民参画を活性化するために新たなシステムデザインの可能性をご提示いただいた。 次に,わが国を代表する大御所お二人の研究者から地球温暖化政策と放射線リスク管理のジレンマについてご執筆をいただいた。まず,西岡秀三氏にはCOP17のてん末を見届けていただいたうえで至急のご執筆をいただいた。四半世紀にわたる世界の温暖化対策枠組み議論の逡巡を見つめてきた西岡氏は,ダーバンでの合意が世界の低炭素化をゆるぎないものとした歴史的な決定であるとしつつも,東日本大震災が知らしめた自然の摂理に触れながら,「人類はいまだ自然と付き合うための礼儀作法を体得していない」と受け止め,短期の視点から社会の大転換をはばむ「縛りつけ効果」への懸念を示された。浦野紘平氏には,環境リスク学が培ってきたリスク評価・管理に係る研究成果を,福島第一原発事故後の放射線リスクへの運用に即して考察していただき,不安を減殺する「新たな環境情報科学」は,自然科学的情報に加えて社会心理学的な側面が重要との指摘をいただいた。 最後に,松原望氏にはご専門の統計学の立場から環境科学を論じていただいた。環境と経済の両立の議論を誤ると,水俣病問題の失敗に代表的にみられるように「科学がイデオロギー化」する危険があること,決定論的な世界観に立つ行政や司法の保守性のもとでは,最も確率的な世界観に位置する先制的予防原則の実現が難しいことが語られている。 本特集が,環境を動機づけてきた科学性と人間性の関係を考える契機となることを期待したい。 |
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