[pp.243-248]
宮本 克己 (東京大学)
要旨:
アメリカ連邦政府は,1960年代の激しい都市化による開発圧力からニュージャージー州の南部パインランド地方の巨大な給水源及び自然資源を保全するために,1978年に,この地に国立保全地域を指定した。この特異性は,この地が自然資源に富み,旧くからラズベリーの生産地として名高く,また砂鉄,ガラスエ業も営まれるなど土地所有も複雑であることから,古典的保全手法としての公有地による国立公園ではなく,その中に農業生産地区,田園開発地域,地方成長地域などの開発規制を異にする8つの地域を包含する地域制に基づく広大な国立保全地域である点にある。また,開発権移転システムを導入することで,規制地域における財産権上の損害に対する補償を可能とし,開発圧力を特定された成長許容地域へ誘導することを可能としている。総合管理計画においては,譲受地の基本開発密度を低く抑えることで許容密度を上げるための開発債権購入の動機を増幅させ,譲渡地の開発権総量(供給)より大きな量の譲受地(需要)を設定することで開発債権購入の競争を惹起するなど,巧みな手法がとられている。さらに,開発債権の売買,登記,担保融資の業務をはじめ不況下における開発債権市場を保証するために開発債権銀行が設けられ,計画の実効性が高められている。
キーワード:
総合管理計画,土地利用規制,開発権移転