[pp.257-262]
濱野 周泰 (東京農業大学)
要旨:
岩手県宮古市(本州太平洋側の北限)において,ヤブツバキ集団の生育立地の地形と気温条件との関係を調べた。1)この地方の冬期夜間の気温変動図は殆ど同じ図形を示す,2)従って,近隣のAMeDAS資料と比較すれば調査地点において過去に経験した低温の極値とその持続時間を推定できる,という既報の知見に基いて分析を進めた結果,この集団が成立している地点では,過去数十年間に最も厳しい低温を経験した冬でも,その極値が-15°Cでをごく僅か下回るのみで,その持続時間も精々1~2 hrであったと推定された(これを-15°C基準の低温経験量と呼ぶ)。一方,ヤブツバキの生育していない近接地点での低温経験量は同じ基準で6 hrを超えていた。他の調査地でも,この低温経験量の差がヤブツバキの生育の有無を決定していると認められた。
キーワード:
分布北限域,ヤブツバキ,地形,低温経験量,等温線