[pp.53-58]
岩井 洋,山村 悦夫 (酪農学園大学,北海道大学)
要旨:
『万葉集』の主舞台を形成する平城京では,社会制度においても,外京や春日野の野という点でも,人々と自然との具体的関係が保証されていた。一方『古今和歌集』の主舞台であった平安京では,三方から高い山並みが間近に迫り,春日野のような野遊びが可能な場所は極めて少なかった。そのために人々は,自然のなかへ直接踏み入ることが難しく,外的自然から隔たった都において,盆地独特の気候により一段と鮮やかな自然美を山々のなかに眺め続けた。このために自然は次第にその具体性や現実性を除去され,人間の意識のなかでイメージ化され観念化されていった。かくして自然は内的自然となり,風景が成立してくる。日本的自然観の成立は盆地性に因るのである。
キーワード:
日本的自然観,盆地,郊外,観念化,風景