[pp.141-146]
矢内 秋生 (武蔵野女子大学)
要旨:
本論文では,自然現象に関する伝承調査から目本海の沿岸地域のひとびとの伝統的自然観を分析し,彼らの科学的方法が,科学教育を受けたわれわれの科学的方法とは異なった,風土性に根差した環境観を形成していることを示す。われわれはこの「もうひとつの科学的方法」を受容することによって,自然環境をさらに多面的に認識することが可能になる。一般にひとびとの価値観や環境観が多文化的であれば,リスクをともなう自然の改変や開発行為,環境の破壊行為に対する思想的なフェイルセーフが期待される。したがって,風土性に根差した環境観は,近代科学的な環境観のみに価値を認めている現代の都市生活に欠けている環境文化をつくりあげる具体的な基礎概念である。
キーワード:
トポフィリア,環境観,もうひとつの科学,伝承的呼称,環境文化