[pp.111-116]
岩井 洋,山村 悦夫 (酪農学園大学,北海道大学)
要旨:
国木田独歩はヨーロッパ的色彩の濃い文学者として受け止められている。確かに独歩は近代ヨーロッパの影響を受け,自然を強く意識し,自然をとおした自我確立を志向した。しかし彼の自然観は近代ヨーロッパ的自然観ではない。例えば彼の北海道旅行記である『空知川の岸辺』では,自然と自我との間に隔たりを置いて客観的に自然を視るヨーロッパ近代の自然観よりも,弱き自我性ゆえに自然との聴覚も駆使した関係のなかで,自我を自然のなかへと一体化させ,自然に包まれる自分自身を描き,さらには自らを自然風景化さえしている。このような姿勢のなかには老荘的な日本的自然観が認められる。
キーワード:
散歩,聴覚,自然,自我,老荘,日本的自然