ceis(一般社団法人 環境情報科学センター)  
  欧州の環境への取組み―事務局滝本の目― 2012年11月 第6号


















「成長」とは逆方向の動きがみられる!?都市
=縮小都市


























「オープンビルディング」方式で、住民主役の街づくり

































































































ちょうどよく衰退していくための、価値観の変化


今後、少子高齢化がより急速に進む中で、これまでの大規模建築等が、現状に合わなくなってくることが考えられます。高度経済成長時代にあった、“より大きく、より多く”という方向から、衰退ではなく良い意味で、“より小さく、より少なく”する方向転換が、様々な分野で必要になってきていると考えます。そこで、第6号、7号では、「縮小都市」という考え方、その事例を紹介します。どうぞ、お付き合いください。

「縮小都市」の考え方

皆さん、「減築」という言葉を聞いたことがありますか。リフォーム用語で馴染みがある方もいるかと思いますが、「建物を改築する際に床面積を減らすこと」と辞書にはあります1。増築の反対の意味の言葉ということです。しかし、ここでは、このような単体の建物における「減築」を含む、もう少し広い意味をもたせた、都市における「減築」―「縮小都市」を取り上げます。

「縮小都市」(Shrinking cities)とは、「人口現象をはじめとし、『成長』とは逆の動きがみられる都市」と言われています
2

日本の将来の推計人口は、2010年から2060年の間に約4,132万人の減少が見込まています。また、人口増加の停滞と合わせて、人口の高齢化が進行しています
3。このような状況を受け、すでに大都市部への人口流出による人口減少や中心市街地の空洞化が問題となっている地域もあり、それらの地域では、空き家の増加や過大となったインフラの管理コストなどが問題となっています。

そこで、衰退していく都市の問題に対処する上で参考になると思われる、ドイツにおいて取られている都市再生政策を紹介したいと思います。

ドイツが経験した、地理的にも政治的にも分断されていた1国の東西地域が、短期間のうちに統一という急激な社会情勢の変化は、日本の状況とは異なりますが、日本が現在経験している人口減少や少子高齢化なども、社会が大きく変化している、という点では共通しています。その中での縮小する都市、という視点から、ドイツの先進事例は、どのように都市の縮小現象に対応していくべきかのヒントとなると考えます。

ここではまず、1990年代にドイツ統一を受けて、旧東ドイツの諸都市が対応した政策の一例として、ライネフェルデ市の政策を紹介します。


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ライネフェルデ市の位置

事例の紹介①―ライネフェルデ団地の再生

ライネフェルデ市では、東西ドイツ統一後、人口の西への流出などに対応するため、ライネフェルデ団地の再生を市の最重要課題として取り組みました。人口減に伴い増加した、東ドイツ時代の画一的な団地群の空き家への対応として、住棟全体の建て替えではなく、補修、減築、増床等の多様な手法を用いた団地再生を行い、また、住民が団地再生プロセスに参画し、意見をいうことができる「オープンビルディング」
4方式を採用し、住民主役の街づくりを進めました。

この団地再生プロジェクトでは、下記図1が示すように、建物の数そのものを減らし、密集度を下げ、その空いたオープンスペースを緑化することにより、緑地が非常に増加しています。
図1 ライネフェルデ市団地再生プロジェクトにおける計画図
(左:計画前の状態、右:計画図)
(図は、Stadt Leinefelde-WorbisのHPより。
計画前の状態【PDF 2.70MB】計画図【PDF 11.12MB】。)

取組みの背景、目的
1961年、東ドイツ政府は、ライネフェルデ市に、セメント生産及び紡績の工場を多数建設し、市は、セメントと紡績の工業都市へと発展しました。それに伴い、人口は2,600人から16,000人へと急激に増加し、1962年に、ライネフェルデ団地が建設されました。しかし、1990年の東西ドイツ統一後、経済の停滞、失業者の急増などが原因で、約4,000人がライネフェルデ市より転出し、同団地の約26%が空き家状態となりました。そのような状態を打破するため、1994年、市は、「労働」「居住」「自然」をテーマとし、その調和を図り、持続可能な社会の実現を目指すことによって、団地全体の居住環境向上および街の活性化を図ることを目的として、団地再生開発プロジェクトを開始しました。
具体的には、右欄に示したような取組みを実施し、その結果、ライネフェルデ市全体の風景は、図2のように、変化しています。
図2 ライネフェルデ市全体写真(上:計画前、下:再生後)
(Gerd Reinhardt, Burgermeister, Erfahrungsbericht III ? Stadtumbau in Leinefelde, Experiences III ? Urban redevelopment in Leinefelde【PDF 9.31MB】
【ライネフェルデ市HP】より抜粋)

滝本の目

縮小都市研究の第一人者である、フィリッップ・オズワルト氏が、「ライネフェルデ市は早い時点で都市の縮小を認識したことが大きい。東ドイツの多くの都市は(縮小の認識が遅れ、)失敗した。」
5と述べているように、今号で紹介したライネフェルデ市は、先見の明をもって、取り組んだ事例です。

これまでは、“大きく発展”する(またはそれを目指す)ことが、当たり前に受け入れられる社会でした。そのため、ひとは“小さく、少なく”していくことを受け入れられるのでしょうか。受け入れるためには、発想の転換が必要ですが、転換を促すためにも、小さく・少なくなる変化が快適なものであったり、それぞれの規模に最適であるように変化をもっていく必要があります。最適な規模の議論は、1970年代に、E.Fシューマッハーが、「適正規模」の議論を展開しているように、すでに言われてきたことですが、重厚長大の当時ではなく、これから人口減少、高齢化を迎える社会だからこそ、輝きを持ってくる考え方なのではないでしょうか。その考え方を活かすには、今を生きる私たちが、行動に起こしていかねばなりません。

縮小都市研究では、縮小都市現象を受け入れることは、「将来もっと小さな都市になるために計画することや、疲弊したコミュニティを一掃すること、以前人が暮らしていたところを緑に戻すこと、あるいは縮小を管理しながらもっと小さく、それでいて暮らしやすい場所に都市を落とし込むことを意味する」
6 と言われていますが、実際、どのようにこのような転換の実現が可能なのか、具体的にはよくわかりません。

また、2005年4月には、日本学術会議より「生活の質を大切にする大都市政策へのパラダイム転換について」【PDF 1.66MB】と題した声明が発表されており、そこでは、市街地縮減時代を迎える日本の都市における新たな土地利用計画を策定する仕組みと、主体の創出の必要性、水辺や緑地を都市の重要なインフラとして認識することの必要性が明記されています。
しかし、これらのパラダイム転換は、「エコ」「ナチュラル・ライフ」「ロハス」と言ったキーワードがブームになる時代背景から聞こえは良いですが、実行に移すとなると、私たちの中の、根本的な考え方の転換が必要となってくることから、非常にハードルの高いものであると思います。

私たちの暮らす日本の社会で、“賢い衰退にパラダイム転換”
7するには、私たちに何が必要なのか、何をすべきか、今回のドイツの事例を、考えるきっかけとして、みていきたいと思います。ご意見やご批判等、お寄せください。よろしくお願いします。


後記
冒頭で、「縮小都市」とは「人口減少をはじめとし、「成長」とは逆の動きがみられる都市」と述べましたが、いったい「成長」とは何なのでしょうか。大きく社会が変化している現在だからこそ、その定義、方向性を今一度問いなおしてみることは大切なのではないでしょうか。人口減少、少子高齢化、大きな経済発展は望めない状況、等々、日本が現在経験し始めているこれらの現象が、今号で紹介したドイツ統一という出来事に比べればゆっくりでも、確実に進んでいる流れであることは間違いない現代に生きる私達は、それを悲観的に受け止めるのではなく、むしろそこに価値を見出していく必要がある、もしくはその良い機会なのかもしれません。
次号では、ドイツのもう1つの事例を紹介するとともに、日本で現在進められている議論を縮小都市の考え方と対比し、整理していきたいと思います。今号も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 
第6号のテーマ

「縮小都市
―より広く快適に、良い具合に小さく、少なく」①

第6号の内容

1.縮小都市の考え方
2.事例の紹介①
3.滝本の目
4.後記

1 小学館『デジタル大辞泉』より。
2 佐藤由美、矢作弘「縮小都市における団地再生―東部ドイツ都市改造プログラムの展開例」『住宅』58(3)(2009年3月)
3 国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成24年1月推計)』(2012年1月)によると、2010年から2060年の間に、年少人口(0-14歳)割合は、13.1%から9.1%へと減少、生産年齢人口(15-64歳)は、63.8%から50.9%へ減少し、65歳以上の老年人口割合は23.0%から39.9%へと増加すると推計されている。


☆ドイツの都市の縮小現象:
特に旧東ドイツの都市において、産業の衰退、旧西ドイツへの人口流出などが原因で起こっており、雇用機会や失業率という指標でみると、旧東ドイツの自治体が衰退に陥っている。


事例①の参考文献:
上田裕文「ドイツにおける団地再生のとりくみ―ライネフェルデの事例」『ランドスケープ研究』71-4(2008)
 

オープンビルディングとは: 
原理は、空間を、街並み→住宅建物(住棟)→住戸という3つのレベルでとらえ、それぞれのレベルごとにふさわしくデザインし、建設しようとするものである。このシステムでは、各レベルでのデザイン・建設・管理・運営の業務が明確になり、その結果、より合理的に建設し、有効に活用することができる。
街並み:自治体がコミュニティの意向を受けてデザイン、建設、管理。

住宅建物(住棟):街並みに合わせながら、居住者の意見を取り入れてデザイン、建設。
住戸:それぞれに居住する居住者が、住棟の枠の内でデザイン、建設、自ら管理。
(日本建築学会 建築計画委員会 オープンビルディング小委員会HPより)
























減築:住棟全部もしくは不要な住戸の取り壊し
転換:不要となる従来住宅に使用されていた空間を都市環境整備に使用
連結・増床:隣接する住棟を新規のパーツでつなぎ、街並みの創成、上下の住居を階段で連結
ノーマライゼーション化:高齢化に対応し、エレベータの設置、1階に高齢世帯を転居させ、中庭側から斜路で入れるよう改修
温熱性向上:外壁に断熱材取付け、断熱サッシへの交換など
居室空間の充実:バルコニー増設、専用庭設置、色彩整備、外装デザイン一新など
新機能の付加:リサイクル資源を使用したオープンスペースの整備(廃材の利用等)、散歩道とサイクリング路を整備 

















5 佐藤、矢作『縮小都市における団地再生―東部ドイツ都市改造プログラムの展開例―』(住宅58(3)、2009年)




















6, 7  トースティン・ヴィッチマン『ヨーロッパの縮小都市:創造的解決に対する挑戦とチャンス』(地域開発546、2010年)
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