ceis(一般社団法人 環境情報科学センター)  
  欧州の環境への取組み―事務局滝本の目― 2012年6月 第5号





















分割されていない下水料金体系は「平等性」に違反!?

























約25年で、
導入自治体は急増!





























































「汚染者負担原則」

「平等性」





Stormwaterについて、ドイツの事例を第1号で紹介しました。その後、皆様からのご意見、ご感想をもとに、調査を継続していましたが、今号では、その後わかった情報及び、アメリカの事例について、紹介します。どうぞ、お付き合いください。

Stormwater最新情報

第1号1に続き、今号では、ドイツにおける下水への課金制度の変更がどのように行われてきたのか、法や判例に基づき紹介します。

下水に対する料金を分割するきっかけは、1985年の連邦行政裁判所の法令でした。この法令では、分割されていない下水料金において、その内、雨水処理に充てる割合が12%を超える場合は、この下水料金を分割し、雨水処理費用と汚水処理費用にしなければならないというものでした。

その後、2003年8月の連邦行政裁判所による、分割されていない下水料金体系に対する違憲判決を皮切りに、各地の行政裁判所においても違憲判決が下されました。このような違憲判決が2010年になされた、ヴァ―デン・ヴュルテンベルク州行政裁判所では、汚水と雨水処理のための標準均一下水料金に従った計算は平等の原則に違反すると述べています2

ここでは、この州の州都シュトゥットガルト市の例を挙げて、事例を紹介します。

事例の紹介③(第1号内、事例の紹介につづく)3
シュトゥットガルト市では、2007年1月より流出雨水への課金が導入されました。基本料金は、1㎡あたり€0.57で、課金対象は、公共の下水道を利用している土地です。そして、シュトゥットガルト市でも、屋上緑化や浸透性面、貯水槽に対して、この流出雨水処理費用の割引を設けています。その割引適用の基準は以下の通りです。

屋上緑化 植生の基底部分が6cm以上の場合、面積の50%は課金対象外。 
浸透性 流出係数0.5に達すれば、面積の50%は課金対象外。
屋根の一部に接続した貯水槽   貯水槽の大きさ(㎥)ごとに、接続している建物の面積は1㎥あたり20㎡、少なく計算され、最大で全体面積の50%が課金対象外となる。


アメリカの事例紹介

次に、「積極的に」行っているというアメリカのStormwaterに関する制度の状況はどのようなものか、事例を交えて紹介します。

アメリカにおける、流出雨水処理費用の課金制度は、1974年には2自治体で導入されていましたが、1990年までには約100自治体、2000年には400を超える自治体で導入されるようになっております4

流出雨水処理費用のレートは、自治体ごとに異なりますが、戸建てのような1世帯の住宅の場合のレートは、例をあげると下表のようになります。

都市名  月額($)  月額換算値(円) *
 Lacey  7.15  570
 Tumwater  6.18  494
 Bellingham  8.40**  672
 Eugene  8.58  686
 Tacoma  9.38***  750
 Puyallup  10.45  836
 Olympia  10.58  846
 Redmond  16.56  1,325
 Seattle  19.58****  1,566
 Portland  21.79  1,743
出典:City of Olympia Utility Advisory Committee (May 26, 2011) Meeting Materials.【PDF 148KB】

ドイツの事例でもみてきたように、アメリカでも下水に対する課金制度を変更し、Stromwater管理を徹底する事例がみられます。ここでは、屋上緑化や流出雨水処理費用の課金制度を米国内で初めて行い(1977年5)、現在も最も先進的に取組んでいる自治体の1つと思われるPortland市(Oregon州)の事例を取り上げ、その課金形式の変化と割引制度の導入の過程を紹介します。

Portland市では、当初の取組みは、「流出した雨水をいかに処理するか」に注力していましたが、1990年代に、流出雨水汚染を改善すべく、流出雨水の流出源での対策に乗り出し6、EcoRoof(屋上緑化)を推進しました。同時に、屋上緑化の流出雨水対策としての効果を評価するため、モニタリングを進めてきました。その結果、1999年、EcoRoofは、公式に流出雨水管理技術として認められ、市の流出雨水管理マニュアル(Stormwater Management Manual: SWMM)7 に含められました。

その後、2000年代に入り、施策をより強力に推進するため、流出雨水処理費用を制度化し、2006年には、新たな課金システムを導入することで、その費用に対する割引制度(Clean River Rewards)8が導入されました。

滝本の目

アメリカの事例で紹介したように、約40年前には、たった2自治体で導入されていた流出雨水処理費用の課金制度でしたが、現在は400を超える自治体に導入されており着々と都市における雨水の管理制度として広まってきています。また、ただ単に制度を導入するだけでなく、近年になって下水道料金の課金方法等を変更し、個人へのインセンティブを与えるかたちで、より発展的に制度運用を開始している自治体もみられます。こうしたことから、都市全体に浸透性の土地を広めていくことに対し、個人の取組みを重視し、これを支援する流れになっていることがアメリカの事例を通じてもわかります。
この個人へのインセンティブを与えるためには、下水道料金の課金方法を変更する必要がありますが、ここで、今号の紹介にあった「平等性」の議論が関係するのではないでしょうか。

第1号では、日本でやり方は異なってもStormwater制度のコンセプトを普及させるには、いくつかの壁があるのではないかと、3つの考え得る壁を提示しました(①下水道料金のしくみ、②個人の所有している土地の規模、③降雨量の多さ)。その後、これらが克服可能か、他にも壁となるものがあるのか、を念頭に入れて、調査を続けてきましたが、①にも関係しますが、④として、下水道料金徴収の「平等性」が加えられるのではないかと考えました。

ドイツの事例では、汚水と雨水処理のための標準均一下水料金に従った計算は平等の原則に違反する、という違憲判決が出され、それがもとで、実際の運用方法が変更されています。そして、アメリカでもドイツでも、このような課金方法の変更を行う際に、必ず、市民への説明の中に、これは「TAX(税金)」ではないこと、あくまで利用料である、ことを明記しています。つまり、自分が使った(流した)分だけその処理費用を支払うものであることを言っています。
日本をみてみますと、下水道料金は、「雨水公費・汚水私費の原則」のもと、水を使った分量に基づいて課金され、雨水の処理に係る費用は、「極めて公共性が高いと認められる」ことから、多くの自治体では、一般会計からの財源(一般会計繰入金)を充てています。つまりは、汚水の原因である利用者に負担を求める「利用料」ではなく、税金です。
ここに欧米の「雨水」に対する考え方との違いがあります。一般会計では、私たち利用者は、自分たちが使った分だけ(流した分だけ)、その負担を負う、という意識は希薄になります。そのため、流れている雨水に対しては、自分たちが流している、という意識は、私自身もそうですが、通常あまりありません。
これは、どちらが良い悪いということではなく、日本では、「費用負担の公平性の観点から、自然現象に起因するような雨水処理等に係る経費など一般に原因者を特定することが困難である経費であり、その受益が広く一般市民に及ぶような経費等については、国の基準に則した適正額の繰入れを行う事が認められている」(富士市HP参照)という考え方をとっています。
ただ、降雨自体は自然現象ですが、Stormwater(流出雨水)は完全なる自然現象とはいえません。流出雨水は、自然現象である雨水が、人が手を加えた土地を流れたものを指すため、人為的な現象が関わっているからです。日本の費用負担の方法も「公平性」を意識して雨水は公費負担になっているのですが、流出雨水を自然現象と捉えなければ、自分の敷地から大量に雨水が流出する人も、広い敷地でありながらも、芝生や浸透性の高い土地利用で流出雨水量を抑えられている人も、一様に払った税金で雨水管理は行われているのは、「平等性」という観点からは疑問符がつく、と考えられないでしょうか。

環境政策の基本的な考え方である、「汚染者負担原則」9に従うならば、税金で一括して賄うのではなく、きちっと分けた利用料金として、その量に応じて、負担するという方が、平等性、透明性の観点からは理に適っているようにも思います。またこれは、個人に対して、全体量を減らすインセンティブにもなります。今後、少子高齢化が進み、税金の歳入も少なくなることが予測される中、自治体の社会資本費用を抑える方向に進むのは、理にかなっていると思います。この点については、下水道の分野に限らず、考えていくべきポイントかと思いますので、自治体の歳入、歳出等のご専門家の方に、ぜひとも、ご意見をお伺いしたいと思います。

後記
前号~今号では、これまでの号で扱ったテーマを振り返り、最新情報や現地の様子などを紹介しました。コメント、最新情報、間違いへのご指摘等を頂ければ幸いです。
次号は、新たなテーマに入る予定です。これまでは「浸透」という観点から都市政策、街づくりをみてきましたが、「縮小・縮減」という観点から都市づくりを考えてみたいと思います。今号でも、自治体の社会資本費用の削減という視点が出てきましたが、「縮小・縮減」のテーマでも、この視点を深めて行きたいと思います。お付き合いの程、よろしくお願いします。
 
第5号のテーマ

「Stormwater
―雨水を浸透させて下水料金割引―」②

第5号の内容

1.Stormwater最新情報
2.アメリカの事例紹介
3.滝本の目
4.後記

本号で紹介する独語資料の訳、解釈は、ドイツ語翻訳・通訳の黒田容子様にご協力いただきました。ありがとうございました。 
Stormwater全般に関する参考文献>
富永猛『ドイツにおける排水課徴金(AbwAG)の現状』(一)(ニ)(高岡法学第3巻第2号、1992年3月)
 

1 第1号では、Stormwater管理を徹底的に行うため、下水に対する課金制度を分割する自治体が増えてきている旨、お伝えしました。

2 バーデン・ヴュルテンベルク行政裁判所2010年3月11日判決VGH Baden-Wurttemberg Urteil vom 11.3.2010, 2 S 2938/08【PDF 161KB】【独語のみ】

3 シュトゥットガルト市 HP【独語のみ】











4 Eric Woolson, Stormwater Utilities: Where Do They Stand Now?, Stormwater, September-October 2004.



* 2012年5月8日現在換算
**
概算
***
算出式より概算
****
平均的な請求額より概算


5 当時の流出雨水に対する対策は、流出雨水用の溜池、大きな流出雨水用のパイプ、地下貯水システムなどの取組みであった。 

6
1991年、USEPA及びOregon州Department of Environmental Qualityによる流出雨水の汚染を減らすより積極的なプログラムを始めるよう要請がきっかけとなった。

7
SWMMは、Portland市の流出雨水処理要求を概説したテクニカルドキュメントであり、私有、公共双方の不動産におけるすべての開発・再開発に対して適応される。(2004年、2008年に改定)。市では、床面積増加および条例による義務付けという手法をとり、EcoRoofを積極的に推進している。

8
Clean River Rewards(流出雨水処理費用割引制度):Residential とCommercialの2タイプに分けられる。
Residential(1世帯住宅、複式住宅):
流出雨水管理の方法は屋根部分からの流出のみに基づき割引が算出される。【割引率】最高35%
Commercial(商用、多世帯住宅(3世帯以上)、産業、組織の建物):
屋根および舗装されたエリアに対する管理に基づき算出される。【割引率】最高100%

<アメリカの事例に関する参考文献>
Portland Bureau of Environmental Services
・Water Environment Research Foundation, Using Rainwater to Grow Livable Communities: Sustainable Stormwater Best Management Practices.
・Steve Wise, Green Infrastructure Rising: Best practices in stormwater management, American Planning Association, August/September 2008.
・Linda S. Velazquez, Organic Greenroof Architecture: Sustainable Design for the New Millennium: making the most of your building’s “fifth facade”, Environmental Quality Management, 2005.
・Glenn Reinhardt, Portland Advances Green Stormwater Management Practices, Cities going green: a Handbook of best practices, the United States of America: 2011.














9 汚染者負担の原則:環境省「環境基本計画―環境の世紀への道しるべ―」では、環境政策の指針となる四つの考え方の1つとして、「汚染者負担の原則」が挙げられている。汚染者負担の原則とは、「社会経済に環境配慮を織り込み、希少な環境資源の合理的利用を促進するための最も基本的な方策は、生産と消費の過程における環境の汚染のコストを市場価格に内部化することです。そのような観点から、汚染者負担の原則を環境保全のための措置に関する費用の配分の基準として活用します。」  





HOME


ご意見・ご感想はこちらまでお願いいたします
e-mail