ceis(一般社団法人 環境情報科学センター)  
  欧州の環境への取組み―事務局滝本の目― 2011年8月 第2号


















土地に負荷がかかること
への解決

































































































































緑化は
付加価値をつける!?


 
 地球を汚すことに対する代償

皆さん、前号では、Stormwater(流出雨水)処理費用の割引制度を紹介しましたが、そこでは、土地の浸透ということに大きな着目がありました。
今号では、それに引き続き、土地の被覆や流出係数に関する話題を取り上げます。制度自体が少し複雑なものを取り上げますので、第2号と第3号の2号に渡ってお送りいたします。どうぞお付き合いください。

皆さんは「Green Factor」という言葉を聞いたことがありますか。これは、「敷地の中に確保すべき緑に覆われた土地の面積割合を定めるもの」です。そして、この「Green Factor」の考え方は、1980年代にドイツの首都Berlin(ベルリン)市州で導入されたBAF(Biotope Area Factor)制度に取り入れられました。今号では、このBAF制度について紹介いたします。

ベルリンでは、都市中心部の過密化傾向が見られ、19世紀半ば頃に、「極端に地表面を密閉するような建築物(敷地のほとんどをコンクリートや敷石で密閉するような集合住宅)」が数多く建設されました。ドイツでは、「土地に負荷がかかる」という表現がしばしば使われるようですが、ベルリン中心部の「土地に負荷がかかっている」状態への解決策として、BAF(Biotope Area Factor)制度が導入されました(ドイツ語ではBiotopflächenfaktor:BFF)。

BAFというのは、「ビオトープエリア値(または率)」として数値を指す場合と、「その数値を導入して景観を整えるという条例/制度」自体を指す場合がありますが(ここでは、数値を指す場合をBAF値、制度を指す場合をBAF制度と表します)、この制度自体は、ベルリン市州が進める景観計画条例(Landscape Planning)を構成する要素の1つであり、その目的は、都市の土地利用の際に、土や植物の機能に着目し、その保全能力や、生物の生息地としての役割などを都市の中で向上させることや、同時に、住民にとっての緑のアメニティを確保することです(アメニティという言葉は、日本語では的確に表現するのが難しいため、ここではそのまま表記しております)。

景観計画条例(Landscape Planning)は、ベルリン自然保護および景観保護法(ベルリン自然保護法:NatSchGBln)第8条に、法的拘束力をもつ条例として記載されていますが、罰則規定は存在していません。

BAF制度は、具体的には、開発計画の際に、その敷地面積に対する、緑に覆われた土地や建物の割合の基準を決めるものです。敷地内の様々な表面タイプに従って、0~1.0の係数を定め(この係数をEcological Valueといいます、【表1】参照)、係数と該当する区画面積を乗じ、その算出値の合計を全敷地面積で除して出た値が、その土地のBAF値となり、その地区の基準のBAF値と照らし合わせて、開発計画の改善や許可を指示します(計算例は後述いたします)。

表面タイプごとの係数は、不浸透面であるアスファルトやコンクリートの区画は0.0、敷地の土壌面への植生は1.0、屋上緑化や壁面緑化は0.5~0.7となっています。

 【表1】表面タイプごとの係数(ecological value)の例
表面タイプ  /㎡ 表面タイプの説明 
 Sealed surfaces
(被覆面)
 0.0 不浸透性、植生なし
(コンクリート、アスファルト、固い基盤の平板)
 Partially sealed surfaces
(一部被覆面)
 0.3 不浸透性、植生なし
(レンガ、モザイク舗装、砂及び砂利の基盤の平板)
 Semi-open surfaces
(半被服面)
 0.5 不浸透性、浸透性、植生あり
(草の被覆の砂利、木材ブロック舗装、草付きのハチの巣状のれんが)
 Surfaces with vegetation, unconnected to soil below
(敷地の土壌とつながりない植生面)
 0.5 地下貯蔵庫または地下駐車場の上の植生面で、80cm以下の土の覆い
 Surfaces with vegetation, unconnected to soil below
(敷地の土壌とつながりない植生面)
 0.7 敷地の土壌とはつながりのない植生面で、80cm以上の土の覆い
 Surfaces with vegetation, connected to soil below
(敷地の土壌とつながりある植生面)
 1.0 敷地の土壌とつながりのある植生面
 Rainwater infiltration per㎡ of roof area
(屋根の雨水浸透)
 0.2 地下水補給のための雨水浸透、既存植物による地表面への浸透
 Vertical Greenery up to maximum of 10m in height
(最大高さ10mまでの壁面緑化)
 0.5 壁および窓のない外側壁を覆う最大10mまでの緑化
 Greenery on rooftop
(屋上緑化)
 0.7 Extensiveおよびintensiveの屋上緑化


基準となるBAF値は、地区ごと、区画ごとに値を決めるのが原則ですが、実際は、建築主との協議の上に、個別にBAF値を決めることになることが多いようです。また、建築主がBAF制度を導入しないと主張した場合には、建築主の「土地所有権」が優先され、上述したように罰則も課されません。ただし、区の担当者と協議した結果、建築主の考えが変わり、BAF制度導入に至る場合もあります。基準となるBAF値について、ここでは、参考として、ベルリン市州ホームページに掲載されている値を示します。

 【表2】基準BAF値の例
変更および増築  新築 
 住宅
 0.60 (開発度合い*:~0.37)
0.45
(開発度合い:0.38~0.49)
0.30
(開発度合い:0.50~)
 0.60
 商業施設
 0.30  0.30
要所での営利事業、中心業務施設、行政および一般使用 
 0.30  0.30
 公共施設
 0.60 (開発度合い:~0.37)
0.45
(開発度合い:0.38~0.49)
0.30 (開発度合い:0.50~)
0.60 
学校、職業センター、教育複合施設、屋外運動施設 
0.30  0.30 
 託児施設およびデイケアセンター
 0.60 (開発度合い:~0.37)
0.45
(開発度合い:0.38~0.49)
0.30 (開発度合い:0.50~)
0.60 
 技術インフラ
 0.30  0.30
*開発度合いとは、DC=Degree of Coverageと記されており、敷地面積に対する敷地内の建物等で覆われている土地の面積割合を指す。


BAF値を達成するための対策として、原則としては、土地の植生エリアを増やすことが優先され、その対策を行った上で、アスファルトやコンクリートを他の表面タイプで置き換えるなどの追加の対策を行うことになっています。

現在、ベルリンでは、図1右図に示すエリアに、BAF制度が適用されています。BAF制度適用地域は、本制度導入経緯からもわかるように、ほぼベルリンの中心部に集中しています。

景観計画条例導入地区 BAF制度適用地区範囲
 【図1】景観計画条例(Landscape Planning)導入地区(左図)及びBAF制度適用地区範囲(右図)
 (Handbuch der Berliner Landschaftspläneより引用)

そして、図2に示すように、ベルリン市の中心部の緑が豊富になったことは、BAF制度が少なからず貢献したと言えるのではないかと思います。

また、建築主が可能な限り自分の不動産に付加価値をつけ、高い賃貸料を徴収することを目的として、積極的にBAF制度を導入しようとするケースが見られるという報告**もありますので、このような動機による緑の増加にもBAF制度が活用されていると考えられます。

ベルリン市街地の様子
 【図2】ベルリン市街地の様子
(C)Berlin Partner/FTB-Werbefotografie


BAFの適用例

実際にBAF制度を適用する際に、どのように計算するのか、ベルリン市州のホームページで説明されている、仮想の土地における適用例を紹介します。

<目標BAF値0.3の土地>
 土地面積:479㎡(開発面積:279㎡、未開発面積:200㎡)
 開発度合い:0.59(279÷479)
 中庭は、主にアスファルトで覆われている(140㎡)
 周囲は、草に覆われている砂利(59㎡)
 1㎡の床土に植わっている木が1本ある

この土地のBAF値を求めると、未開発面積200㎡のうち、140㎡のアスファルトのecological valueは0のため、140×0.0=0㎡、59㎡の草に覆われている砂利のecological valueは0.5のため、59×0.5=30㎡、1㎡が床土のecological valueは、1.0のため、1×1.0=1㎡、この合計は、0+30+1=31㎡で、この土地のecologically-effective surfaceは31㎡と算出されます。
BAF値は、この31㎡を敷地面積479㎡で除して0.06となります。この土地の目標BAF値は0.3のため、これを達成するにはBAF 0.24分の対策が必要ということが言えることがわかります。この対策方法として、下記の対策を取った場合の計算例を示します。

対策方法
未開発面積200㎡について、下記のような対策を施し、
・中庭のアスファルト部分を減らし、表面タイプを変える
・植物の被覆エリアを拡大する
結果、表面タイプは、植生エリア(115㎡)とモザイク舗装(85㎡)となります。

115㎡の植生エリア  115×1.0=115.0㎡
 (植生エリアのecological valueは、1.0)
85㎡のモザイク舗装  85×0.3=25.5㎡
 (モザイク舗装のecological valueは、0.3)
この対策の結果、この土地のecologically-effective surfaceは、115.0+25.5=140.5㎡となります。そして、BAF値は、140.5/479で0.3と算出されます。よって、この対策方法で、この土地は、目標BAF値を達せたということができます。


次号は・・・
引き続き、このBAF制度に代表されるGreen Factorについて他の事例も紹介しながら、今号で挙げた視点(滝本の目)を掘り下げていきたいと思います。第3号までの間に、ぜひ皆様からGreen Factorについて、またその他の緑化や浸透面を促進する制度について等、たくさんのご意見、ご感想をいただき、より議論を充実していけたらと思っております。どうぞよろしくお願いいたします(下記入力フォームよりお送りいただければ幸いです)。

 
第2号のテーマ

「Green Factor
―敷地の緑地割合を定める制度:ドイツBAF制度―」①

第2号の内容(第3号につづく)

 1.地球を汚すことに対する代償
 2.BAFの適用例

*本号で示しました値等は、ベルリン市州の都市開発局(Senate Department for Urban Development)ホームページを参照しております。

 滝本の目
(事例から何を学ぶか)


Green Factorという考え方を取り入れた制度は、土地利用(地球を汚すこと)の代償(相殺)という大胆な発想から、緑化や土地の浸透性を都市内で増やそうとする、大変興味深い制度ですが、このような事例から何を読み取り、何を学び、日本で良いところを取り入れられるでしょうか。今号では、まずどのような視点が考えられるのか、その視点を挙げてみたいと思います。
このGreen Factorという考え方から、滝本が現時点で考え得る視点は以下のようなものが挙げられます。

①どのような緑化が都市に求められているのか。
②緑地が都市の機能として高い評価を受けるには、緑地の価値についてどのような考え方の転換、制度による優遇等が必要なのか(他の法律と並ぶような実行力のある制度にもっていくには?)
③都市の緑化や、浸透性の向上等は、win-winアプローチであり、社会的、経済的、環境的利益といった複合的な利点をもたらすと認識され始めているが、世界中の都市で、早急に採用されているわけではない。このような利点の多い制度を採り入れられない大きな課題が、都市づくりにおいてあるのか。それはどのようなものか。

緑のちがい?(①に関して)
ベルリンの市街地の写真を見ると(図2参照)、団地の間に豊富な緑が見て取れますが、これらの緑は、「都心の住民の身近に緑があり、小さいかたまりの緑ではあるけれど、それが連続している緑化、都市に住む多くの人の身近にある快適な緑空間、緑のアメニティがある」といえます。今号で紹介したような制度の大きなポイントではないかと思います。
もちろん日本の首都東京も、空からみますと、神社や大規模公園など、緑がかたまって多く存在するところはたくさんありますし、都市緑地の活用も増えてきつつあります。しかし、ドイツをはじめとするヨーロッパの都市にみられるような緑――公園などの緑地を整備した公共空間だけでなく、個人宅にも小さなかたまりでも緑があり、それが、その敷地外の人にも(公の道路や広場から見ることができるという事も含めて)利用でき、かつそれが連続していくことで、街全体に至るところに緑がある――状況とは異なります。快適で機能的な都市にとって、どのような緑が求められるのでしょうか。

緑の価値、土地利用と自然のバランス?(②、③に関して)
BAF制度は、ドイツにおいても、他の法や条例の前では無力であったり、その時々の政情によって揺れ動いてしまったりする制度ではありますが、「土地利用の代償(相殺)」という考え方は、人が都市に住むこと、都市における人と生物の関係について、大きな示唆を与えているように感じます。
「代償(相殺)」(ecological compensation)という言葉は、非常に強い言葉ではありますが、都市中心部の「土地に負荷がかかっている」状態は望ましくない、それを解決していくべきであるという考え方から来ています。では、なぜ、土地利用の代償(相殺)を払わなければならないのでしょうか。
ここには、自然本来の力を、これを排除するのではなく、積極的に利用していく都市が、持続可能な都市であり、また地球温暖化をはじめとする異常な気候にもうまく対処できるという考え方が根底にあるように思います。また、ひいてはそれが、都市に暮らす人にとっての快適性にもつながるという考え方です。BAF制度の目的に、「都市の土地利用の際に、土や植物の機能に着目し、その保全能力や、生物の生息地としての役割などを都市の中で向上させること」という目的があるのもこの考えを表しているのではないかと思います。緑の価値が、都市そのものの力、機能として高く評価されています。それゆえ、その機能を奪うような土地利用にはそれなりの代償を払う必要がある、という考え方も納得がいきます。
日本にも、都市の緑化を進める制度には様々なものがありますが(「都市緑地法」、「緑地管理協定制度」「特別緑地保全地区指定制度」「緑地管理機構指定制度」「首都圏近郊緑地保全法」「市民緑地制度」等)、そこには、都市利用の代償(相殺)といった視点は着目されていないように思います。緑の価値については、様々な個々の効果について整理がされつつありますが、制度上の原動力となっているのは、容積率の割増、管理の負担軽減、税の優遇による土地の所有コストの軽減といった経済的なインセンティブであり、それによって都市の緑地の保全を図っています。
機能性と快適性、どちらも一緒に手に入れるには、本来、都市が作られる前にあった自然の力を最大限、都市に復活させていくことが必要であるという考え方は、ある意味では、とても当たり前のようですが、これまでの都市化が示すように緑のスペースを追いやってきたことを考えますと、大切な考え方であり、この考え方が根付くには、発想の転換が必要なのではないかと思います。
人間に「対するもの」としての自然ではなく、自然と人間を循環的にとらえる自然観の日本においては、この考え方はむしろしっくりと馴染むようにも思いますが、発想の転換、緑地の価値に重きを置く制度の導入等、そこにはどのような課題があるのでしょうか。

以上のような視点をもって、第3号では他事例を紹介しながら、これらの視点をより深く考えていきたいと思います。このような視点も考えられる、こんな考え方もある、といったご意見をお待ちしております。

 ** 環境省『平成20年度ヒートアイランド対策の環境影響等に関する調査業務報告書』参照。

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